子ども心理学についての論文は数多くまとめられています。子ども理解や子どもに関わる教師の実態、遊びや運動、学習に対するカリキュラムのあり方やその内容について、研究者それぞれの視点で明らかにされています。論文は、ある程度個性というものがでていますが、それぞれの論文には子ども心理学に真っ向から迫っています。

子ども心理学に関わる論文を詳解1.教育者の成熟化と子ども理解の関連性に関する研究

上村晶

この子ども心理学の論文では、保育士の実態を明らかにしながら、保育園における若手保育士とベテラン保育士のバランスのとれた運営が重要であるということを実証しています。一般企業においても同様のことがいえ、若手のよさとベテランのよさが絡み合ってこそ活性化している状態を保つことができます。

ここでは、保育士を取り巻く背景要因として「園内協働性」に焦点をあてた調査を行い、保育士と子どもの関係を明らかにしています。論文の中で保育士の子ども理解は「相互性(お互いが補い合うこと)」と「敏感性(些細なことに気づくこと)」に影響することを明らかにしながら、若手保育士とベテラン保育士のバランスに言及しています。

子ども心理学を扱った論文として、この論文によって明らかになっていることは次のようになります。

・保育経験が短い(若い)保育士によって「敏感性」がもたらされる

・保育経験が長い保育士によって「相互性」がもたらされる

「敏感性」は、心理学でも大切にされる子ども理解にとって非常に大切な感性で、子どものちょっとした変化への気づきを感じ取ることです。例えば、「いつもと違って元気がない子どもの様子を感じ取って対応すると、風邪やインフルエンザ症状だった」というケースもあります。若手保育士は、「子どものこんなことまで」気づきます。些細なことまで気づくことは、子ども理解につながり保護者への報告によって良好な関係を気づくことができます。

「相互性」は、保育士の悩みの一番にあげられる人間関係に関わります。保育園や学校は職員の協同作業で成り立ちますが、その協同は、若手保育士にとってはまだ学んでいない部分になります。それをカバーして協同していくのがベテラン保育士です。「敏感性」と「相互性」という2つの要素に絞ったこの論文は、まさしく子ども心理学を真っ向から語っています。

子ども心理学に迫る論文を詳解2.「子ども理解」を妨げる教員の多忙感―中学校教員を事例にー

片山悠樹

教員の残業、持ち帰り残業などによる多忙が社会問題になっています。それに伴って「被害者」になっているのが子どもです。教員の仕事内容が多すぎて、子どもに向き合う時間が少なくなって子ども理解を十分にしてやれないという現場の声があるほどです。国としてもその対策を提言していますが、この論文は子ども心理学の論文として、教員の多忙が招く問題を真っ向から研究されています。

子ども理解を妨げているのは、教員が多忙だからだというこの論文は、教員に対しても、子どもやその親に対しても課題を投げかけています。その課題は以下の2点です。

・教員の立場として「なぜ多忙なのか」については、学級経営や進路指導のほか、教材研究やイベント行事の準備などに追われている現状があります。児童・生徒と話をしたり遊んだりする時間が非常に少なくなり子ども理解を妨げているのです。

・子どもや親は、先生に相談したくても忙しそうで話しかけにくい、先生が親身になって聞いてくれないという思いを持っています。子ども心理学について学んでいる教師が相談相手になってくれないという現状があります。

教員の多忙という課題が解決されない限り、子ども心理学上重要ないじめや不登校という最悪の事態になります。この論文では、教員の多忙の教育活動への影響の検討が試みられました。分析の結果として、30代以降の教員が学校の中核となって指導にあたっていることから、多忙化の子ども理解への影響が大きくなっていることがわかっています。

子ども心理学に迫る論文を詳解3.幼少接続期における学びと育ちをつなぐ運動(遊び)及び体育に関する研究報告

高井和夫・細矢咲紀

子ども心理学を研究で、子どもの遊び(運動)に焦点を当てた論文も数多く発表されています。幼少期の子どもの運動能力の発達は、教師らによる指導によって大きく変わります。運動だけを教えて運動能力を高めるのか、運動の仕方を教えてあとは子どもの自主性を重んじるのか、友だち同士で刺激し合って(時にはライバルとして、時には教え合って)高め合うのか、この論文は、遊びや運動における子ども心理学に迫る論文だといえます。この論文の注目すべき点は、以下の5点です。

・幼児期から児童期へのつながりを明らかにしていること

・子どもの発達段階に応じて指導することを大切にすること

・幼児教育での質(児童期を見据えた取組み)を高めることが必要なこと

・幼児期、児童期に応じた支援や指導が必要なこと

・運動の学びにおいて「学びへの積極性」をどう育てるか、子ども心理学として注目すべき「心と体の一体性」をどう育てるかが重要なこと

子ども心理学に迫る論文を詳解4.「学びの構え」をかたちづくる保育・教育実践:保育内容「言葉」に関する指導方法

塩崎美穂

幼稚園等での保育内容一つの「言葉」の領域に焦点を当てたこの論文では、ニュージーランドの「子どもの声を聴く教育」を参考にしている。注目すべき点は「子ども像(子どもにこうなってほしいと思い描く姿)を大人が考えてそれに導く社会と、子どもと一緒に取り組んでいく社会の違いにあるというところです。子ども心理学の観点からも、この論文の「言葉」の領域を取り上げた実践は価値があります。

子ども心理学に関わる論文・子ども理解に迫る・まとめ

子ども心理学に関わる論文では、さまざまな仮説を持って、実際に幼・保育園や学校の子どもの様子を観察、先生への聞き取り等によって研究内容を明らかにされています。特に幼児・児童に関わる研究では、「子ども理解」を大きく取り上げ、いかにして子どもを理解するのかに迫っています。学校関係の先生方をはじめとして、子育てをされている親御さんも参考になります。